林道から崖下をのぞくと、なにやら黒い影が…
ツキノワグマです。
山のなかにある棚田の最上段に現れました。崖下までは30メートルほど。かなり近いといえます。刈り入れ前の稲が広い範囲で倒されているところをみると、クマはここに長い時間居たと思われます。息を殺してじっと観察していると…
ふり返りました。気付かれたでしょうか。
どうやら気付いてはいないようですが、油断はできません。
のんびりと稲の穂を食べはじめました。
遭遇から20分以上が過ぎましたが、クマはまだ下に居ます。じっくり観察できてうれしいのですが、困ったことになりました。実は、おしっこがしたくなって、そろそろ我慢の限界です。今ここには私とクマしかおりません、これを幸いというべきなのでしょうか。気付かれないようにそっとしゃがみこんで、できるだけ音をたてずにおしっこをしましょう。気付かれませんように…
よかった、クマは気付いていないようです。
と、そのときです。クマはいきなり体をおこすと、足ばやに奥の茂みに入っていきました。クマは私に気付いたのです。
おそらくですが、棚田には人のにおいが残っていたのでしょう。なので私のにおいがしてもさほど気にならなかったのかもしれません。しかし、クマは人の新鮮なおしっこのにおいには敏感に反応したのです。
多くの動物には縄張りというものがあります。みなさんが家でかわいがっているイヌやネコにも縄張りがあって、おしっこを印にしていることはご存知のとおりです。野生動物ならなおのこと、縄張りを大切にします。動物たちにとっておしっこは重要な意味をもっているのです。
(9月 福島県会津地方)